2012年10月9日火曜日

スティーブ・ジョブズ 神の交渉力

スティーブ・ジョブズ 神の交渉力
【著】竹内一正
 

タイトルを読んで、交渉術に関する内容を想像していたが、交渉術のノウハウよりも、交渉に関連したスティーブ・ジョブズに関する逸話が数多く紹介された内容となっている。

読み終えて感じたことは、ジョブズの性格は極端に自己中心的で強引に周囲を振り回し、人間関係において義理や人情を重要とは考えない性格であるということである。しかしながら、その性格は世界に新しいものを生み出し、広めていく上で必要なものである様に感じた。新しいものを生み出すためには、普通考えもしないようなことにこだわり、時間と労力を裂かなければならない。普通の人間であれば、周囲の反対や常識にとらわれてしまい、不確実な自分の信じることに莫大な時間とお金と労力をかけることに躊躇してしまうだろう。しかしながら、自己中心的で強引な性格であれば、そこでブレーキはかからないのかもしれない。

この本の中で、特にこれらの性格が感じられたのは、ジョブズがピクサーを買収したのち、ディズニーと契約してCG映画「トイストーリー」をヒットさせた後のこととして紹介されている出来事である。
「トイストーリー」は、当時資金不足で喘いでいたピクサーに、ディズニーがその製作やプロモーションにかかる莫大な費用を負担したことで、大ヒットを生むことができた。その一方で、この映画のキャラクター商品によって得られる収益は全て、ディズニーに入るという契約を、ジョブズはディズニーと結んでいた。
「トイストーリー」の大ヒット後、ジョブズは期限がまだ来ていないこの契約の変更を迫ったのだ。ジョブズはこの交渉に勝利し、その結果、ピクサーは「トイストーリー」のキャラクター商品によって得られる収益の一部を得ることができたのである。
立場が優位になったとたん、資金を援助してもらった相手に牙をむく、強引で身勝手な性格が、結果として非常識ではあるが収益をもたらしたのである。

一方で、このような振る舞いは、ジョブズの並外れた目的達成への熱意によるものなのかもしれない。
若き日のジョブズは、できたばかりのベンチャー企業アップルに資金を提供してくれるところを求めて、つてをたどってはしつこく頼み込んでいた。何度断られてもしつこく電話をかけ、強引にでも資金の提供を取り付けたのである。このような、恥を恐れず、愚直にでも目的の達成を目指す熱意が、ジョブズの人格を形成していたのかもしれない。

2005年、ジョブズは卒業を控えたスタンフォード大学の学生に、次のような言葉を贈っている。
"I have looked in the mirror every morning and asked myself: "If today were the last day of my life, would I want to do what I am about to do today?" ...... Remembering that I'll be dead soon is the most important tool I've ever encountered to help me make the big choices in life. Because almost everything — all external expectations, all pride, all fear of embarrassment or failure - these things just fall away in the face of death, leaving only what is truly important. Remembering that you are going to die is the best way I know to avoid the trap of thinking you have something to lose."
(私は毎朝鏡を見て、私自身にこう問いかけています。「もし今日死ぬとしたら、私は今日まさにしようとしていることを、したいと思うだろうか。」.....「すぐに死ぬ」と覚悟することは、人生における重大な決断を下すときに大きな自信となります。なぜなら、ほぼ全てのもの―周囲からの期待やプライド、恥や失敗への恐怖など―は、死に直面すると消え去り、本当に大切なものだけが残るからです。死を覚悟して生きていれば、何かを失ってしまうかもしれないと恐れることがなくなるのです。)

この言葉が、熱意と相まって、ジョブズに普通は避けるような行いを実行させていた様に私には感じた。

自分が目指す生き方にもよるのであろうが、この常人とは違う「天才」や「神」と呼ばれ、栄光の頂点から転落し、また復活する波乱の人生を生きた人物の生き様には、参考にすべきところが多分にあると感じた。





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